「最先端への研究」への挑戦 尼崎南部再生研究室顧問 片寄俊秀

「尼イモ」の復活は南部地域再生の大きい力になると見ている。幻のイモを探し求めて幾千里。ついに農水省の試験場が数千種類のイモの品種を毎年毎年植え替えて保存してきたなかに、「尼イモ」こと「尼ヶ崎赤」がちゃんと保存されていることを知り、その苗を少し分けていただいて復活の口火を切ることが出来たというお話を伺って、農水省と日本という国を見直した。まだ育苗が進まず大量生産は無理とのことだが、かえって尼イモの希少価値を高めているのがいい。尼イモを軸に世界のサツマイモの品種を尼崎に結集すれば、質量の確保は十分だ。試験場が開発している、味覚、色、形、性質、成分などさまざまな新品種もどんどん取り入れたい。まちおこしと選挙は女性の支持如何という。おイモのファンは圧倒的に女性だから「おイモのまちおこし」の成功確率は高い。関西地方にまだ先行事例を聞かないので、急ぎたい。工場跡地や校庭など、イモ畑の候補地はいくらでもある。

イモ料理は、先日埼玉県川越市の割烹「いも膳」で一人前五千円というお昼の懐石料理をいただいたが、手のかかったなかなかの美味であった。夜の懐石膳は一万二千円というから奥は深い。「おいもさんのお店・らぽっぽ」 (大阪)のパイやマフィン、最近神戸の「モロゾフ」が発売した「鳴門金時トリュフ」(100円)も絶品だ。粉末化の技術が進み、葉っぱから根っこまで捨てるところのないサツマイモの新食品開発の余地は大いにあると聞く。市民から「イモ料理・菓子」の新しいアイディアや事業者を募集し、日本各地や世界の知恵を総動員して尼崎の新しい食文化を創造したい。お菓子屋さん、レストラン、土産物店などが軒を連ねる「あまいも横町」と、隣接して尼イモにまつわる尼崎の食文化が学べて味わえる「尼イモ博物館」をつくれば関西の新名所になろう。誘致を希望する商店街を募るといい。中南米原産のサツマイモが世界の人々にどれほど愛されているかも展示・即売したいし、「ポケモン」や「デジモン」に対抗する「アマイモン」の人気キャラクターで子どもたちを惹きつけたい。「冬は焼き芋、夏はあまいもソフト」などなど、アイディアはイモづる式にどんどん広がっていく。

公害を追求する時の険しい表情とはうってかわって尼イモを語るときの人々の表情がなごやかなのが何よりもいい。おイモは平和と幸せと尼崎のまち再生のシンボルになる。

尼崎南部地域の再生は、どこから、何から手をつけるべきであろうか。もちろんカネも力も必要だが、何よりも「再生のシナリオ」を描くことがいま切実に求められている。だが、これが全く見えないのだ。それだけに、研究者としてこれほどエキサイティングで、やり甲斐のある、まさに最先端の研究テーマを与えられたことに心から感謝している。私自身には、かつて高度成長期に大阪府の技師として千里ニュータウン開発などに従事した技術と知識、さらに「成長一辺倒型」開発への反省を軸に現代の地域都市環境の再生研究をしてきた蓄積と、「尼はきっと蘇る」というプロとしての予感もある。

とはいえ、正直いまのところ手持ちの札は「尼イモ」だけ。とりあえずこのパワフルなカードの可能性をとことん追求すると乙ろからスタートしてみたい。イモで弾みをつけて「ものづくりの町の復活」「産業遺産を活かす」「水辺と運河と港と海の再生」「緑と農の再生」「エコと福祉のまちづくり」そして「商店街の再生と下町の復権」などなど尼崎再生のための諸課題の研究を市民や学生とともに「イモづる式」に展開していくという戦略である。


片寄 俊秀(かたよせ としひで)

1938年生まれ。奈良県出身 関西学院大学総合政策学部教授 専攻:まちづくり学、地域都市環境デザイン 自然環境復元計画、工学博士、技術士 京都大学工学部建築学科卒 著書: 『ブワナトシの歌』『スケッチ全国町並み見学』『地域発のまちづくり学』