尼崎コレクションvol.37《旧尼崎発電所(きゅうあまがさきはつでんしょ)》

尼崎市立歴史博物館所蔵の逸品を専門家が徹底解説。この街の貴重なお宝が歴史を物語る。

阪神電鉄開業当時の唯一の歴史遺産

歴史博物館では収集した旧尼崎発電所の煉瓦のブロック・単体を旧発電所の歴史を紹介した写真パネルと一緒に2階ホールで展示しています。また、鉄骨は別棟の産業資料展示室で展示しています。ぜひ見に来てください。

今年は阪神電鉄が開業して120周年になります。1905年(明治38)の開業当時、阪神電鉄の本社は尼崎駅の南東に所在しており、車両工場や発電所などの主要施設も尼崎に所在していました。尼崎はまさに阪神電鉄開業の地、中枢の地でした。

阪神電鉄開業当時の歴史遺産として唯一現地に残存していたのが旧尼崎発電所でした。開業の前年に竣工した旧発電所は煉瓦造2階建ての火力発電所で、1907年(明治40)に東側に増築されています。発電した電力は電車だけではなく周辺地域にも供給され、尼崎地域に初めて電気を供給したのがこの発電所でした。1919年(大正8)に発電を終え、以後は倉庫として使用されてきましたが、昭和60年(1985)に東側増築部分が取り壊されました。尼崎市内に残る2番目に古い煉瓦造建築であり地域のランドマークでもある旧発電所は、2011年(平成23)に尼崎市まちかどチャーミング賞を受賞しています。しかし2024年(令和6)12月から解体工事が始まり、煉瓦造建物は無残に解体されていきました。

尼崎市立歴史博物館では、阪神電鉄の協力を得て煉瓦のブロック・単体数個と梁として使用されていたイギリス製の鉄骨を1本収集しましたが、歴史博物館にできたことはこれだけであり、近代の文化財建造物を残すことの難しさを改めて認識することになりました。

2025年(令和7)2月に解体工事が終わり、工事用仮囲いが外されると写真のように1階南側外壁が残されており、1985年の増築部分解体時に残された外壁と連続した煉瓦の壁になっていました。一部分だけになってしまったことは残念ですが、恒久的にこの地に阪神電鉄開業時の歴史遺産が存在し続けることになったことは、阪神電鉄と尼崎市の歴史を知り、未来を考える上で大変有意義なことです。


桃谷和則
尼崎市立歴史博物館学芸員 歴史博物館では現在企画展「にっぽん博覧会ものがたり」を開催中です。