フード風土 50軒目 味楽園
よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
華麗なる骨付カルビの一人祝宴
のらりくらりと16年あまり書いてきたこの連載も50回目。記念にちょっとだけええもん食うてもええやろか…と貴布禰神社での編集会議で、あくまで控えめにおうかがいを立てた時、筆者の頭の中には具体的な店が確固としてあった。
阪神出屋敷の駅を出てすぐの『味楽園』。韓国の南大門を模した堂々たる構えに、いつも目を引かれてきた。いや、ついさっきも前を通ったんやけどね…と、さりげなく、だが強い気持ちでアピールすると、さいわい受け入れられ、おっさん一人焼肉の挙行と相成った。祝50回。
出迎えてくれたのは、康虎哲(カンホチョル)さん(43)。焼肉職人としての自信と誇りを強くその目に宿した三代目の青年社長である。
1964年、祖父がバラック小屋のような15坪から始めた店を実質切り回したのは、康さんの父、柄洙(ビョンス)さん(71)だったという。小学2年から店を手伝った康さんは厳しく仕込まれ、高校卒業と同時に社員となる。
「子供の頃からホルモンを洗ったり、タレを作ったりしていましたが、入社後は朝鮮高校の同級生3人と一緒に社員寮に入り、朝から晩まで焼肉修行。とにかく焼肉一筋の厳しい父親でね。なんとか一人前と認められ、よそで修行して来いと許されるまで6年かかりました」
その父が試行錯誤の末にたどり着いたのが名物の骨付カルビ。すごいすごいと噂は聞いていたが、出てきた肉に圧倒された。子供の腹巻ほどある、見事な帯状の赤身が鉄板を覆い尽くす。もみダレ染み込んだ表面の輝きは、まるで羽を広げた火の鳥。でかい。しかし…美しい。
「うちは、ええ肉よりうまい肉。ランクの高さよりも、赤身の脂質のよいものを毎日厳選して仕入れています」
「もみダレはかなり甘く、付けダレは醤油濃い。その違いや組み合わせを、オン・ザ・ライスで楽しんでください」
手際よく肉を焼き、はさみで切り分けながら康さんが解説してくれる。うなずきつつ黙々と食べ進むと、あっさり腹に収まった。しかし全然もたれない。というか、もっと食べたい。
康さんは焼肉の流れ、いわばストーリーを提供したいという。締めは、先の南北首脳会談でも話題になった冷麺だ。さっぱりしたスープで口を直せば、今度はみんなで来たい、タンソルトやロースも食べたいと、次なる野望が湧いてくるのだった。■松本創
50軒目 味楽園
南竹谷町2-1
17:00~0:00
月休(祝祭日の場合は営業)
TEL:06-6411-9329