フード風土 46軒目 日新天ぷら店

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

「日々新た」でも、変わらぬ天ぷら

日々メシを作っていて家庭料理とプロの味の決して越えられぬ壁を感じることは多々あるが、天ぷらは最たるものではないか。作業や手順がさほど難しいわけではないのに、どうにも思い通りに揚がらない。土井勝先生の料理本を開くと、「おいしい天ぷらの条件は、タネ、衣、油の三つが揃うこと」とあり、なんや全部か…と心挫けて、結局は市場で買って帰ることになる。

店先のメニューリストにある定番は約20種類。野菜は60円~、魚介は120円~。一日の締めに揚げるげそ天は一盛り300円。おかずにも酒のアテになる人気商品。

尼崎南部のそんな悩める家庭の食卓を長年救ってきたであろう[日新天ぷら]は、1948年の創業からもうすぐ70年。親娘三代で受け継がれてきた、あの街キャラ「尼崎一家」も平伏す下町の名物店である。

「祖父が開いた店を、まだ中学生だった父も手伝ったそうです。そこに母が加わり、わたしも幼い頃から店先で育ちました。天ぷらを紙で包んだり、イモの皮むきをしたり。うまくできたらお小遣いをもらえるのが嬉しくてね」と、鶴留朋代さん(48)。父亡き後、母の平尾慶子さん(76)とともに看板を守る。

受け継いだのは看板だけではない。寡黙な職人だった祖父や父から学んだ仕事の流儀は今もそのままだ。油や小麦粉の種類、衣の配合、素材の野菜選び。

「サツマイモはずっと徳島の鳴門金時やし、レンコンも徳島産、タマネギは淡路島産。高くても質の良い国産を使います。時季によっては外国産しかない野菜もあるんですけど、そういう時はそのメニューは休みます」

ええ素材が入らへんかったら無理に揚げんでええ、というのも祖父や父の流儀だった。

道具は特注で作った鋳物の天ぷら鍋。素材によって油の量を変え、常に新しい油を継ぎ足す揚げ方は、最近増えている電気フライヤーではできない。

揚げたてのエビやゴボウをほお張らせてもらう…と、これがほんのり甘い。素材の良さもあるのだろうけど、衣自体に味が付いているのだ。聞けば、何もつけずそのまま食べられる、冷めても風味と食感が変わらないというのを祖父や父は最も大事にしていたそうだ。

取材に訪れた閉店間際にも次々とお客さんがやって来る。食べ盛りの子がいるのか、どっさり2000円以上買っていく奥さん。夕方から並ぶげそ天を目当てに来た(けど、売り切れで肩を落とす)おっちゃん。

「日々新た」という店名ながら、そんな店先の風景は70年前からきっと変わらないのだろう。


46軒目 日新天ぷら店

建家町83
10:00~18:00 不定休
TEL:06-6413-2952