3時の働くあなた
左門橋防潮鉄扉開閉訓練
国道2号左門橋を封鎖する防潮鉄扉を見守る関係者。重さは40トンもあるという。(写真と記事は2015年の訓練の様子)。
7月の日曜深夜。毎年この時期、この時間に尼崎市民の命を守るために働く人がいた。
ここは大阪府との県境、国道2号の左門橋右岸。この日はあいにくの雨。パトカーが交差点を封鎖し、迂回するよう誘導している。午前1時、左門橋の信号が赤の点滅信号に変わる。「左門橋、封鎖!」。搭載されたディーゼルエンジンがうなり出す。「ブルブルブル…」エンジン音に「プッ、プッ、プッ…」という警告音が重なる。高さ4.4メートル、長さ23.4メートル、厚さ1.2メートル、重さ40トンの真っ赤な防潮鉄扉が国道上の左門川沿いに敷設されたレールをノソリ、ノソリと動き出した。国道を完全に閉鎖するまで約5分。「ガシャーン!」。鉄扉を下降させ、地面に固定させた音だ。
淀川や神崎川、左門殿川には、この左門橋のように堤防より低い位置に橋が架かっているため、堤防が途切れたようになっている。台風などで川の水位が上がると、堤防と同じ高さの防潮鉄扉を閉めて浸水を防ぐのだ。大阪兵庫あわせて17カ所にこうした鉄扉があり、台風シーズンを前に、毎年、両府県で一斉に合同訓練を行っている。2014年8月には台風接近により本当にこれらの鉄扉が閉められた。
合同訓練の参加者はおよそ600名。左門橋西詰の鉄扉開閉だけが唯一、兵庫県の管轄であり、警察、消防を含む兵庫県庁、尼崎市役所の職員約50名が訓練に立ち会った。この日は悪天候にも関わらず、年に一度のイベントを10数名のギャラリーが見守る。ギャラリーの数は年々増えているという。
「今年も大阪の方が早いがな」。毎年、対岸の大阪側の鉄扉の方が尼崎より早く閉まるらしい。こんなところに競争心が見え隠れするのがオモシロイ。
現地本部総括である尼崎市河港課長の柴田俊樹さんは、今年の訓練が初参加。「大掛かりな訓練だと思ったが、府県を跨る国道を通行止めにするためには、大阪の現地本部をはじめ、関係機関とかなり連絡を取りあわないと。訓練なしでは、イザというときにうまくいかないと思った」と語る。それにしても50人もの職員を立ちあわす必要があるのかという疑問が沸く。同じく河港課係長の小川博司さんは、「鉄扉の開閉には少なくとも3人必要です。緊急事態に備えて、実際にどのように鉄扉を操作しているかを見ておくことが大事なんです」となんとも頼もしい。
午前1時42分、午前2時の交通規制解除を前に、尼崎側の防潮鉄扉が開きはじめた。そのとき大阪側の鉄扉は、すでに全開であった。
この日のお夜食
「イリエのクリームパン」
園田在住の職員が差し入れしてくれた「イリエ」の「クリームパン」を尼崎市役所河港課のみなさんでなかよく食べたのだとか。
取材・文/たていしたかひろ
この連載担当の永井さんが今回は執筆活動でご欠席のため、立石が書きました。