フード風土 42軒目 串かつ専門店 あさひ離れ

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

尼崎から拓く串かつの新世界

スズキの昆布締め140円、島らっきょう130円、豚角煮150円。奥は、豚玉ねぎやたこなどの定番10本盛り合わせ1,180円

串かつといえば、大阪・新世界の半ば専売特許のように言われ、最近はバスを仕立てて有名店に行くツアーまであるそうだが、そういう観光化された「昭和レトロ」とは違う、地元民に長く愛されてきた店が、関西の地域それぞれにある。

やはり串かつ激戦区である尼崎で一番に名前が挙がる屋号は[あさひ]だろう。戦後まもなく出屋敷にできたコロッケ屋をルーツに、市内に数店舗の兄弟店がある。なかでも、阪神尼崎駅すぐの高架下という絶好の立地にあって、今年50周年を迎えたのが尼崎中央店(本店)。その3軒隣に1月、[あさひ 離れ]がオープンした。

(写真上)ネタケースに並ぶ具材(下)[あさひ]ののれんを守る3代目竹内夫妻

「祖父から父へと受け継がれてきた本店の調理法や30数種の定番は残しつつ、本店ではできないメニュー展開や店づくりに挑戦したかったんです」と語るのは、離れを預かる3代目の竹内章さん(38)。20代半ばで家業に入ったが、27歳で一念発起し、和食修行の旅へ。「鍋洗いから始めました」という修行中に出会ったのが妻の美娜さん(28)。この若夫婦によって、尼崎串かつ界に新風が吹き込まれることになった。

たとえば、スズキの昆布締め。[あさひ]の特徴である粗めに目を揃えたパン粉を付けて揚げ、さっぱりと蓼酢で食べる。出し巻き卵は串かつにしてもふんわりと豊潤なだしが滴り、豚の角煮は肉に染みた八角の風味が香り立つ。島らっきょうは逆に鮮烈な味と匂いがやわらぎ、ホクッと優しい味に…。

テーブルには本店と同じ2種類のソースもあるが、これら変わり種には、雪塩やおろしポン酢、アジア風のソースが用意される。旬の素材への幅広い目配り、丁寧な仕事とある種の「品のよさ」は、なるほど和食の世界を知る夫婦ならでは。

とはいえ、もともと労働者の食い物として生まれた串かつの、ビールやコップ酒片手にガツガツ食うイメージも竹内さんは大事にしている。

「ビールに合うのは当たり前。それプラスで考えたい。ごはんにも合う、ワインでもいける、そして家族連れや女子会にも使える店にしたいですね」

祖父と父から継いだものは守りつつ、串かつに「新世界」を拓かんとする竹内さんである。


42軒目 串かつ専門店 あさひ離れ

神田中通2-28
17:00~22:30 火曜休
TEL:06-6411-9298