尼崎コレクションvol.04《長洲天満神社絵馬》
尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。
屋根の下から発見された絵馬
[作品のみどころ] 画面左下に海上を逃げる平敦盛、右上に追いすがる熊谷直実を描く。周囲の木枠のうち上下は当初のもの。右上の切断跡が痛々しい。332mm×398mm
海上を馬で進む若武者と扇子を広げて呼びかける騎馬武者。寿永3年(1184)、一ノ谷合戦での熊谷直実と平敦盛を描いた絵馬である。八代将軍徳川吉宗治世の享保18年(1733)に長洲天満神社に奉納されたこの絵馬はちょっと変わった伝来をもっている。
阪神・淡路大震災で屋根が破損した長洲天満神社本殿(兵庫県指定文化財)の修理工事の際、檜皮(ひわだ)を除去したところ絵馬の断片が野地板の補修材として使われているのが発見された。現地で確認したところ、断片は約百点あり、「延宝」や「元禄」などの年号も書かれていた。修理で不要となる断片は市に寄贈され、調査・整理の結果、絵馬等28面の断片で、うち23面はほぼ元の姿に復元できるのが明らかになった。その後、専門機関での保存処理を経てかつての姿を取り戻した絵馬は、平成12年3月に「長洲天満神社絵馬」として尼崎市指定文化財に指定されている。
このうち、延宝8年(1680)の「武者図」は市内現存最古の絵馬であり、上の写真で紹介している「熊谷直実・平敦盛図」は「当村寺子虎吉」とあり、こちらは尼崎の寺子屋の最古の資料となる。そして、なによりも貴重なのは長期間にわたり外気にさらされない環境にあったことから、鮮やかな彩色が良好に残されており、当時の色合いを現在まで伝えていること。
最も新しいものが寛保元年(1741)の絵馬なので、屋根の部材に転用されたのはこれ以降のことと考えられる。絵馬がリサイクルされた理由は定かではないが、当時の人々の「英断」が200年を経て我々に恩恵をもたらす結果となったことに感謝したい。
移転オープン!
文化財収蔵庫
今年1月に城内地区へ移転した尼崎市の文化財収蔵庫は、展示スペースが充実しました。弥生時代の出土遺物や、尼崎城と城下町に関する資料、工都を感じる大型産業機械、ちょっと懐かしい昭和30年代の生活道具などを展示しています。開館は月曜日から金曜日の9時から17時30分。
入館無料・予約不要●南城内10-2 TEL:06-6489-9801
楞野 一裕(かどのかずひろ)
尼崎市教育委員会学芸員 名字は小難しいが人柄はそんなことはない、と本人は思っている…