マチノモノサシ no.6 環境再生目指す尼崎の公園事情

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

市民1人に緑地4平方メートル

尼崎には山がない。だから緑も少ない…と考えるのは早計。山がなくても、周囲を見渡せば緑が目に入る。公園だ。市公園課によると、今年4月現在、市内には327カ所もの公園があるそうだ。そんなにあるのか、じゃあ緑が溢れているんだな…と思えば、これまたそう単純でもなくて、面積にすれば182ヘクタール、市民1人あたりで約4平方メートル。日本の国民1人あたりの公園面積は9.5平方メートルというから、その半分にも満たない。

つまり、尼崎には小さな公園が数多くある、ということらしいのだ。

なぜか。尼崎では昭和40年代に大気汚染の公害対策として公園を急速に増やしていった。だが、河川・港湾の一部を除くほぼ全域が市街化されている尼崎で、緑を増やすのは容易ではない。特に南部は密集市街地が多く、新たに公園を整備する用地が少なかった。そこで埋め立てた川や水路を利用した。大物川緑地や常光寺川緑地、新川緑地などがそうだ。整備を始めた昭和40年当時、公園はたった99カ所。同じ頃、約1万3千本だった植栽は、ほぼ40年経った現在、270万本を超えている。

兵庫県などが進める『尼崎21世紀の森構想』。公害地域の環境再生をうたい、国道43号以南の約1千ヘクタールの環境改善を図る一大プロジェクトだ。中心となる尼崎の森中央緑地には、1万6千本の樹木と2千本の苗木が植えられた。猪名川・武庫川流域で自生する種子から苗木を育て、今後も10年以上にわたり植樹を続ける「市民参画」の森づくりなのだという。「生態系を守りながら、これだけの規模を緑地化するのは全国でも初めて」と担当者は胸を張る。

その一方で、民間の緑は減る傾向にある。ひとつは、工場減少の影響だ。昭和48年施行の「尼崎市民の環境をまもる条例」によって、1万平方メートル以上の工場は敷地の10%以上の緑化が義務付けられた。昭和57年度には協定締結工場の100%緑化が達成されたが、その後工場の転出・閉鎖が続いた。ピーク時に72万平方メートルを超えた工場の緑地は、現在64万平方メートルになっている。

もうひとつは、民間住宅、特に一戸建ての緑の減少だ。自家用車の駐車スペースを取るために庭を持たない家が増えていることが原因らしい。「1本の植樹より車1台」ということか。

尼崎市内で新たに緑地を確保することはなかなか難しそうだけれど、こんな例もある。

塚口町の「中條建設」。軽くて水はけのよい土を開発し、全国で屋上緑化を進めている。中條昌彦社長は「まとまった規模を緑化できる点で、企業は大きな可能性を持つ」という。注目しているのは屋上や駐車場の車路。これまで「すき間」のように扱われてきた空間だ。尼崎市域の豊富な地下水を使えば維持費も抑えられるというから、身近な緑化はまだ進むかもしれない。

さて、尼崎一大きい公園はどこかというと、武庫川河川敷緑地だそうだ。その広さは、実に市内の公園面積の4分の1を占める。ということは、ここが尼崎で一番空気がキレイな場所なのかもしれない。ジョギング、ウォーキング、犬の散歩…と、朝夕、人が絶えないはずだ。 ■尼崎南部再生研究室

樹木植栽本数の推移 驚異の増加、207倍

昭和43年に1万3千本しかなかった本数は269万6千本(平成17年)にまで増えた。

※「公園・緑化のあゆみ」(尼崎市都市整備局土木部)を元に作成