フード風土 4軒目 ペルー料理「LA MAQUINA DEL SABOR」

国道の南、スパイスの香り

国道43号を南に越えると地球の反対側に出た─などといえば大げさか。南米はペルー。遠い国の暮らしが、古ぼけた小さなビルの中に息づいていた。

何しろここには近所の工場で働く南米やアフリカの人たちが住んでいて、3階のペルー料理店「ラ・マキーナ・デ・サボール」は、彼らの食堂代わりといった趣なのだ。

以前はスナックか何かだったのだろう。店内にはスペイン語のポスターやエスニックな装飾もあるが、どこか「昭和の夜」の残り香が─。街の全盛期にはきっと、「あ~らターさん」「ママ、今日も顔見に来たで」なんて会話が飛び交ったに違いない。それが今や、週末ごとサルサのリズムにアミーゴ踊るラテンパーティーである。うーむ、国際化ニッポン。

夫婦で営む店は開業3年。夫、ホアン・カスティーヨさん。故郷の味を日本で広める料理人として、先日東京の大使館に表彰された。妻、グラディス・ガルシア・イナミさん。リマ出身の日系3世。怪しげなスペイン語と筆談で迫る筆者らに終始笑顔で応じてくれた。

カスティーヨ夫妻
ボリューム満点の料理は一皿1,000~1,500円
珍客にも温かいアミーゴたち

自慢じゃないが、ペルー料理のことなど何も知らない。料理はおまかせに、「クリスタルビール」で胃袋のテンションを上げつつ未知の味に臨む。

最初の皿は「ロモ・サルタード」。牛肉と野菜の炒め物だ。染み出る肉汁、ほのかな酸味、何より「アヒ・アマリーヨ」(黄唐辛子)の放つ独特の風味が鼻腔をくすぐる。「美味い」の意思表示に、「アヒ・アマリーヨ!」と巻き舌で連呼するわれわれ一同。アホである。

「セビーチェ」は、エビなどの魚介類と赤タマネギをレモン汁で和えたペルー風マリネ。いい塩梅に効いたコショウが潮の香りを引き立てる逸品。

両隣には、1日の労働を終え夕食のテーブルを囲むペルーの若者グループ。クリームシチューのぶっかけ飯のようなものを食っている。やけに美味そうだ。早速注文。それがこの夜最高の出会いとなった。「アヒ・デ・ジャジーナ」。鶏の胸肉を牛乳やチーズのソースで煮込み、カレーライスのようにかき込む。老若男女に優しいマイルドな味わいの中、香り付けのスパイスが良い仕事をしている。

隣の席のアミーゴたちは、ワインだテキーラだカラオケで「ベサメ・ムーチョ」だと、たちの悪い酔客と化していくこちらに嫌な顔もせず、話し相手になってくれた。アマはこういう人たちにも支えられてるんだよなあ。帰途、もうろうとする頭で思った。■松本創

残念ながら「ラ・マキーナ・デ・サボール」は、現在は営業していません。